民法では、「同時死亡の推定」という規定を設け、「数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後に生存していたことが明らかでないときは、これらの者は同時に死亡したものと推定する」としています。
前回(同時死亡の場合の相続(1))、夫(B)と子(C)が同一の交通事故で死亡したものの、2人のどちらが先に死亡したかは不明であったという事例を想定し、夫(B)と子(C)のどちらが先に死亡したとするかによって相続の結果が変わってしまうことをご説明しました。
結論だけをまとめると、夫(B)が先に死亡したとすれば、妻(A)は夫の遺産である3000万円すべてを相続できる一方、夫(B)の両親(D・E)は夫(B)の遺産を相続できません。
これに対し、子(C)が先に死亡したとすれば、妻(A)は夫の遺産(3000万円)のうち2000万円しか相続できず、他方で、夫(B)の両親(D・E)は500万円ずつ相続することができます。
そうだとすると、相続の場面においては、当然、妻(A)は夫(B)が先に死亡したと主張し、夫の両親(D・E)は子(C)が先に死亡したと主張することになるでしょう。
同時死亡の推定
このような争いを避けるため、民法は、「同時死亡の推定」という規定を設けています。
民法第32条の2(同時死亡の推定)
「数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後に生存していたことが明らかでないときは、これらの者は同時に死亡したものと推定する」
この規定により何が起こるかというと、同時死亡した者同士では相続が生じないことになります。つまり、夫(B)は子(C)の財産を相続せず、逆に子(C)も夫(B)の財産を相続しません。その上で、夫(B)の財産と子(C)の財産とはそれぞれ生きている親族に相続されます。
結果として、夫(B)の財産3000万円は、妻(A)と夫(B)の両親(D・E)が相続します。相続分は妻(A)が3分の2=2000万円、両親(D・E)が各6分の1=500万円ずつです。これとは別に、もし子(C)に財産があれば、妻(A)が全てを相続することになります。
なお、「同時に死亡」といっても、必ずしも死亡時刻が秒単位で一致しているということを要求するのではありません。どちらが先に死亡してしまったのか、その先後関係が不明である場合は「同時に死亡」したと推定されるため、そのような場合も含めて「同時死亡」の問題として扱うことになります。
この規定の適用により、上記のようなトラブルは避けることができることをお分かりいただけたでしょうか。普段使える豆知識とは言えないかもしれませんが、頭の隅に置いておいていただければと思います。
最終更新日:2018/08/09