1 はじめに
この動画では、「暗号資産」と相続の関係について、解説したいと思います。
暗号資産は、最近ではテレビCMでも見かけるようになり、認知度が高まってきたのかなという印象ですが、その普及に併せて、今後、暗号資産を保有したまま被相続人が亡くなるケースも、多くなるものと思います。
そこで今回の動画では、暗号資産にまつわる相続の問題について解説したいと思います。
遺産として暗号資産を承継したいと考えていらっしゃる方や、亡くなられたご家族が暗号資産を保有しているか知りたいという方にも有益かと思いますので、是非ご覧ください。
◆暗号資産の仕組み →2.
◆暗号資産は相続できる? →3.
◆暗号資産の調査・確認方法 →4.
◆暗号資産を相続するための手続は? →5.
◆暗号資産をスムーズに相続させるために、保有者がすべきこと→6.
2 暗号資産の仕組み
まず、暗号資産(仮想通貨)とは、デジタルデータに変換された通貨であり、発行元の中央銀行が存在せず、ブロックチェーン技術のもと、インターネット上で分散管理されている電子データです。
暗号資産は、一般的に、「交換所」や「取引所」と呼ばれる事業者から入手し、又は法定通貨(円やドル)に換金することができます。また、保有者ごとに割り当てられたアドレスからアドレスへ、送金することもできます。
このようにして取引される暗号資産は、「秘密鍵」(持ち主であることを証明するIDのようなもの)と「ウォレット」と呼ばれる仕組みで保管されることになります。ウォレットにはいくつか種類があります。
①オンラインウォレット
→オンラインのクラウド上で提供され、使用するもの。(ネット預金口座のようなもの)
②モバイルウォレット/デスクトップウォレット
→スマホやパソコンに、ウォレットのアプリやソフトをインストールして使用する。
③ハードウェアウォレット
→USB状のデバイスなどに電子データを保存して使用する。
④ペーパーウォレット
→保管している暗号資産を復元するために必要な情報が印刷してあり、紙の状態で保管 して使用する。
3 そもそも、暗号資産って相続できるの?
暗号資産は、お金や不動産などの有体物とは異なり、目に見えない物です。目に見えませんから、“所有する”という概念もないわけですね。
“所有する”という概念がない以上、そのような暗号資産を相続することができるのか、という疑問が生まれそうですね。
実は、この問いに答える裁判例はまだありません。
ただ、法律実務では、暗号資産にも財産的価値が認められる以上、相続の対象になると考えられています。
ちなみに、税務実務上も、暗号資産を相続・遺贈・贈与できることを前提に、相続税や贈与税が課税されるものとして取り扱われています。
4 亡くなった人の暗号資産なんて、どうやって探すの?(調査・確認方法)
暗号資産が相続の対象になるとしても、被相続人の暗号資産について、どこにどんな暗号資産がどれくらいある、といった詳細まで把握できている方はほとんどいません。
被相続人が、遺言やメモに残しておいてくだされば別ですが、そうでない場合の調査・確認方法について解説したいと思います。
暗号資産の調査は、先ほどご紹介した「ウォレット」の場所と内容を探す作業になります。
⑴ ①オンラインウォレット、②モバイルウォレット/デスク トップウォレット
先ほどご紹介したウォレットの種類のうち、①オンラインウォレットや②モバイルウォレット/デスクトップウォレットについては、ネットやアプリ上の取引所にウォレットが作成されていることが多いので、取引所を探し、問い合わせるという手順をふみます。
流れの一例は、以下のとおりです。
ⅰ) 取引の形跡・取引所を探す
被相続人が生前使用していたパソコンやスマホのデータを確認し、暗号資産の取引を行っていた形跡がないか、調査する。
ⅱ) 取引所に問い合わせる
大手取引所であれば、暗号資産の開示手続・相続手続について規約を設けています。
これらの規約を確認し、必要資料・事項を揃えた上で、取引所に連絡して、「相続が発生したので、暗号資産の取引内容(ウォレットの有無や残高など)を開示してもらいたい」と問い合わせることになります。
ⅲ) 取引所から情報開示を受ける
取引所によっては、残高証明書(銀行と同様)を発行してくれるところもあります。
これを受け取って、相続手続に進むことになります。
以上、凡そ、被相続人の預金残高について、銀行に問い合わせるときと同様のイメージです。
また、取引所がどこにあるのかさえ検討がつかない場合でも、大手取引所を何件か当たって、ⅱの手順のとおりに問い合わせていただいてもよいかと思います。
⑵ ③ハードウェアウォレット、④ペーパーウォレット
これに対し、ハードウェアウォレット、ペーパーウォレットについては、被相続人が、これらを保有していることを他者に伝えていない場合、また相続人がハードウェアウォレット、ペーパーウォレットを見つけられない限り、相続承継まで進むことが難しい場合も想定されます。
5 暗号資産を相続するための手続は?
ウォレットの所在が分かったら、次はこれを受け取るための相続手続を行うことになります。
大手取引所であれば、暗号資産の開示手続と同様に、相続手続について規約を設けています。これらの規約を確認し、必要資料・事項を揃えた上で、取引所に連絡して、相続手続を申し込むことになります。
必要資料としては、凡そ以下のものを求められることが多いのではないかと思います。銀行預金の相続手続と同様のイメージです。
・被相続人の住民票除票や除籍謄本(被相続人が亡くなった事実が分かる資料)
・相続人の戸籍謄本(相続関係が分かる書類)
・以下のうちいずれか(遺産の帰属が分かる書類)
・遺言書(検認済みの自筆証書遺言、公正証書遺言など)
・遺産分割協議書+相続人全員の印鑑登録証明書
・遺産分割調停調書
ちなみに、これも銀行の取扱いと似ているのですが、相続手続に慣れた大手取引所であれば、暗号資産を保有している方が亡くなったという情報を認識した時点で、その暗号資産が無断で取り出されることのないよう、ロックがかけられることになります(口座凍結)。
6 暗号資産をスムーズに相続させるために、保有者がすべきこと
⑴ 暗号資産をスムーズに相続させるためのポイント
結論から申し上げると、暗号資産の保有者におかれては、
ⅰ)最終的には、①オンラインウォレットまたは②デスクトップウォレット/モバイル ウォレットを利用して暗号資産を管理すること
ⅱ)暗号資産を保有していること(できれば保有先の取引所も。)を、引き継ぎたい人に伝えておくこと
をおすすめします。
先ほどご説明したとおり、ウォレットのうちハードウェアウォレットやペーパーウォレットは、これらを紛失したり、または相続人が把握しないまま見つけられなかったりすると、事実上相続させることができなくなります。
そのため、できる限り、オンライン・アプリ上で、取引所を介してウォレットを管理しておくようにしましょう。そうすることで、相続された方が探し出しやすく、また相続手続をスムーズに行うことができるようになります。
⑵ 遺言書の一例
また、ⅱ)伝えておくこと の一環として、暗号資産を相続させたい相手が決まっている場合のために、遺言書の書き方についても解説します。
遺言書の書き方にはお作法があるのですが(たとえば、不動産の場合は登記簿の記載に則した書き方が必要です)、暗号資産については、凡そ以下のような書き方をしておくと、問題ないかと思います。
第〇条 遺言者は、遺言者の有する下記の暗号資産を~~に相続させる(または「遺贈する」)。
記
・暗号資産の種類 :~~(「ビットコイン」等)
・暗号資産の数量 :~~(「●●BTC」、「死亡時に下記ウォレット にて残存する暗号資産すべて」等)
・暗号資産交換業者名:株式会社●●
・ウォレットの種類 :~ウォレット
・利用者ID :●●●●●●
7 おわりに
以上、今回の動画では、
◆暗号資産の仕組み →2.
◆暗号資産は相続できる? →3.
◆暗号資産の調査・確認方法 →4.
◆暗号資産を相続するための手続は? →5.
◆暗号資産をスムーズに相続させるために、保有者がすべきこと→6.
についてご説明しました。
冒頭で述べたように、暗号資産は、今後、これを保有する方が増えてくるのと同時に、保有したまま亡くなり、相続の対象として取り扱われるケースも多くなるものと思われます。
暗号資産を保有している方や、亡くなった方が保有している可能性のあるご家族の方におかれて、この動画が参考になれば幸いです。
また弊所では、自筆証書遺言・公正証書遺言に関わらず、遺言書の書き方や、保管方法などをご説明したり、遺言書の作成をお手伝いすることも多数ございますので、暗号資産等の相続にお困りの方も含め、是非ご相談ください。
今回もご覧いただきありがとうございました。
執筆者紹介
弁護士 井上瑛子(いのうえ はなこ)
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
福岡県弁護士会所属
おくだ総合法律事務所
福岡市中央区大名2-4-19
福岡赤坂ビル601
MAP