こんにちは、弁護士の奥田です。
今日は、「成年被後見人の遺言」。民法973条と同じく、966条という条文があります。これを中心に説明していきたいと思います。
まず成年後見について説明します。 精神上の障害によって、自分のやったことの結果がよく分からないといった状態になった時に、お身内の方が家庭裁判所に申立てをして、この本人の財産の管理を別の方がやるといった制度がありまして、これには「補助」・「保佐」・「成年後見」という三つの類型があります。
まず「補助」というのは一番軽いものなんですけれども、ご本人の ”事理弁識能力が不十分” な場合、ご本人が自分の法律的な行為の結果を理解する能力が不十分な場合は、補助ということになって、補助人というのが就きます。本人は被補助人・被補助者という言い方をします。
それから「保佐」です。保佐というのはもう少し進んで、 ”事理弁識能力が著しく不十分” 。こういった場合は保佐ということになります。保佐人という人が就きます。
それから一番状態が悪い場合には、「成年後見」ということになって、これは ”事理弁識能力を欠く” 常況の場合には、成年後見人という人(お身内の方など)が就いて、この人が本人の代わりにいろいろな財産上の行為をするといったような制度があります。
先程申し上げました通り、これは家庭裁判所に身内の方などが申し立てして、家庭裁判所から審判をしてもらう。それによってこういうことが始まりますよということになります。
それで、今日説明するのはこの「成年後見」の場合です。
こういう場合です。お母様がおられて、お母様が事理弁識能力を欠く常況だということで家庭裁判所に申し立てがされて、例えばご長女が成年後見人になりました。こういう場合に、お母さんが遺言を全くできないのかというと、そうではないということになります。
法律はどういうふうになってるかというと、民法973条という法律があります。「成年被後見人の遺言」ということで、『成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時』。もともと事理を弁識する能力のない常況ということで成年後見になっているわけですけれども、その後状態が良くなって、お母様が事理を弁識する能力を一時回復しました。こういう時においては遺言ができるわけですけれども、こういう場合に遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない、ということになっています。お医者さん二人以上立ち会ってください。それから2項で『遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない』ということになっています。
法律はこういう方法を用意してくれています。ただ一つ注意すべきは、立会いをする医師というのが誰でもいいのかというと、そうではないということになります。974条があって、『次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。』ということで、一号、未成年者は(医師が未成年者ということは基本的にありえませんから)これはいいとして、問題は二号ですね。『推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族』ということになっています。ですので先程の例で、例えば長女がたまたま医師でしたよという時に、お母様の主治医の先生とご長女二人で立ち会っていいのかというと、それはいけないということになります。ご長女は推定相続人ということで、お母様が亡くなった場合には相続人になるわけですので、そういう場合にはだめだ、別のお医者さんが必要になります。
それからもう一つ、被後見人の遺言に関しては重要な条文がありまして、それが民法966条。これはどういうことかというと、『被後見人が、後見の計算の終了前に、後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は、無効とする。』となっています。
2項がありまして、『前項の規定は、直系血族、配偶者又は兄弟姉妹が後見人である場合には、適用しない。』と書いてありますので、直系血族、つまり子どもさんなどが成年後見人の場合には適応はしません。 だからこの場合には、お母さんが「長女に財産をあげます」というような遺言をしても、先ほどの民法966条によって無効になるということはない、ということになります。
ただし、これは直系血族とか配偶者又は兄弟姉妹が後見人の場合じゃないとだめですから、甥姪などが後見人になっている時に、成年被後見人である方が「甥姪に全部財産をあげます」みたいな遺言を書くことになると、この966条に抵触してしまうということになると思います。ですので、この民法966条という条文にも注意していただく必要があります。
これまでの話は、基本的には成年後見の場合でして、最初に説明した「補助」と「保佐」の場合は別になります。ただ先程申し上げた通り、補助というのは事理弁識能力が不十分、それから保佐というのは事理弁識能力が著しく不十分。遺言というのは、遺言を書く人に遺言能力、つまりこれは事理弁識能力とほとんど同じだというふうに考えて良いと思いますけれども、自分がする遺言の意味とか効果をちゃんとわかって遺言しないと無効になります。遺言能力が必要となっていますから、元々(事理弁識能力が)不十分、著しく不十分な人が遺言するわけですから、後にこの遺言能力ということが争われる可能性があります。
特に、遺言の内容が少し複雑だったような場合には、この遺言に関しては遺言能力はなかったんじゃないかと、死後に争われたりするケースがままあります。それから補助・保佐・後見というのは家庭裁判所の審判があってから始まるわけですので、この事理弁識能力を欠いたりとか、著しく不十分な人であっても、家庭裁判所の審判がなければ別に被後見人等になるわけではないんです。ただその場合でもやはりその時の能力が問題になりますので、補助・保佐の場合だけではなくて、能力に疑いがあるという時は、後に遺言能力が争われる可能性がありますので、どんなふうにするのかということは弁護士などの専門家によく相談をして進めることをおすすめします。
今日の話は以上です。
筆者プロフィール
弁護士 奥田 貫介
おくだ総合法律事務所 所長
司法修習50期 福岡県弁護士会所属
福岡県立修猷館高校卒
京都大学法学部卒
おくだ総合法律事務所
福岡市中央区大名2-4-19
福岡赤坂ビル601
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