こんにちは弁護士の奥田です。
今日は「遺言すべき場合」ということで、特別受益者がいる場合についてお話をしたいと思います。
こういう場合は遺言しておいた方がいい、という事例についての説明です。
お父さんがおられて、財産として約8000万円をお持ちです。お子さんは長女と長男、このお二人が法定相続人です。
長女はこれまでお父さんから特別に経済的な援助を受けたことはない。もちろん、学校に行かせてもらったとか、食事をしてとかはあるのだけれども、特別に何かお父様から経済的に援助を受けることなく今まで来ました。
他方、長男はこれまでお父さんからたくさんの経済的な援助、お金をもらってきましたよ、というようなケースですね。
こういうケースの時、 まず民法、相続の原則ですね。原則としてはどうなるのかというと、原則としては、お父様が亡くなった時には、長女・長男は法定相続人で2分の1ずつということがまず原則ですから、4000万円と4000万円ですね。こういうことになるわけですね。
ここで法律に詳しい方は「おいおいちょっと待てよ。こういう場合に調整する規定があるじゃないか。」と思われるかもしれません。確かにそれはおっしゃる通りです。
何かというと、特別受益者の相続分(民法903条)という条文があります。何が書いてあるかというと、
『共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、、、、』
この贈与を受けた者があるときは、以下についてはいわゆる”持ち戻し計算”ということが書いてあって、この事例でいうと、お父さんから生前にご長男がもらった分、これをもう一回相続財産に計算上戻すような形にして、それを2分の1した上で、前にもらった分は既にご長男は受け取り済みだという形で調整する、という規定があります。
確かにこの規定によれば、長男が前に受けた多額の経済的援助については、遺産分けの場面できちんと考慮されることになって公平な解決が図られるようにも思えるんですけれども、しかし現実問題としてはそう簡単ではない。
一つは『共同相続人』への贈与。これが対象になるわけです。この事例でいうと、長男自身がお父様からもらった贈与、これが対象になるわけで、例えば長男の子ども、お父様からすると孫になりますけれども、長男の子どもがもらった贈与、これは原則対象じゃないですよ、ということになる。
ここはよく揉めるところなんですけれども、「共同相続人中に」と書いてありますから、長男の子どもは共同相続人じゃないわけですので、長男の子どもに対する贈与は関係ないですよとか、長男の奥様に対する贈与は関係ないですよ、といった話になるわけです。
そこもいろんな解釈で、実質長男への贈与だとか、そういう形で特別受益だと認められることもありますけれども、しかしやはりそこは問題になります。
それからもう一つは、「『生計の資本』として」ということも要件としてあります。ここでよく言われるのは、親族間の扶養を超えたような特別の援助とか、あるいは相続財産の前渡しといえるような援助とか、そんな風に言われるんですけれども、実際の場面でどうなのかというと、例えば長女は高校を卒業してすぐ働きました。長男は東京の大学に行かせてもらいましたというような場合は、長男の大学進学費用などが特別受益になるのか?ですね。このあたりもよく問題になります。
今時だったら大学進学費用ぐらいは特別の扶養の範囲を超えた援助にはならないといったような考え方もありますし、いやそうじゃないんだといったような考え方もある。それから例えば国公立じゃなくて私立だったらどうか、あるいは私立の医学部だったらどうかとか、いろんな場合があり得て、そこも非常によく問題になるところではあります。ですのでなかなかそう簡単ではない。少なくとも小遣いをたくさんもらっていたという程度では、なかなか「生計の資本として」ということにはならないということで、特別受益には当たりませんよ、ということになります。
それからもっと根本的な問題として、贈与を受けたということを、贈与を受けた本人(今回の例でいうと長男)が認めるか、あるいはちゃんとその贈与を立証できる、ということが必要になってきます。よくこの辺りで問題になるのは、長男が家を建てる時に、お父さんから1000万円もらった。これはお父さんが生前言っていた。ただお父さんが言ってたぐらいでは、なかなか立証ということにはならないわけですね。
例えば家を建てる当時、お父さんの口座からその長男の口座に1000万円の送金があったという場合はいいんですけれども、そうじゃないような場合ですね。どうも現金で渡してるみたいだとか、そういったケースでは非常にその立証という点で難しくなってくるということになります。
なので、この贈与ということをご本人(長男)が認めるか、あるいはきちんと立証できる必要がありますから、お父さんとしてもあまり大っぴらには渡してなかったりなどしますから、これを立証する非常に大きな壁として出てくるということになります。
ですのでこういったような場合には、お父様としては生前に遺言を残しておく。「俺は長男にはもう大概お金を渡してきた。いろんな援助をしてきた。これに対して長女には何もしてやってないから、長男には少なく、長女には多く、ということで財産を残したい。」というふうにお考えであれば、是非遺言をしていただいて、例えば大雑把にいうと、長女に4分の3を相続させます、といったような遺言を残しておく。
こういうことで先ほどの特別受益のような問題はかなりの部分を解消できることになりますので、ぜひそういったようなケースの場合には弁護士などの専門家にご相談をされて、遺言を残しておくということも一つ有効な手立てではないかと思います。
今日の話は以上です。
筆者プロフィール
弁護士 奥田 貫介
おくだ総合法律事務所 所長
司法修習50期 福岡県弁護士会所属
福岡県立修猷館高校卒
京都大学法学部卒
おくだ総合法律事務所
福岡市中央区大名2-4-19
福岡赤坂ビル601
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