Q.
2人兄弟の母が、亡くなる10年前、長男である私に住宅を贈与していました。その母が亡くなったのですが、贈与された住宅以外に大した財産は残されていません。二男が「遺留分」を請求してきましたので、二男に住宅の一部を渡さなければならないのでしょうか?
A.10年前に贈与された住宅に住み続けていた長男は、仮に何らかの理由で後に贈与の法的効力が否定されたとしても、住宅の所有権を得ることができるという「時効」の制度があります。
しかし、「遺留分」は亡くなった人(被相続人)の意思によっても奪うことができないもので、一定の贈与については何年前にされたものであっても「遺留分」の取戻しの対象となります。
したがって、長男が住宅を「時効」により取得しても、住宅以外に財産がなければ、住宅が「遺留分」の取戻しの対象となります。しかし、住宅のように分割できない物については、「遺留分」の価額をお金で弁償することによって、住宅に住み続けることができます。
10年以上前に行った住宅の贈与が「遺留分」をめぐるトラブルになることは、一般の方は気付かないことが多いといえます。このようなトラブルは「遺言」をきちんとしておくことで防ぐことができます。「遺言」をする際には、相続人となる方に対する贈与等を記録しておき、相続の専門家である弁護士にご相談ください。
1 所有権の時効取得
永い時の経過により権利関係がはっきりしなくなるような場合に、継続した事実状態を尊重して権利を得ることを「時効」による取得といいます。
例えば、母親から贈与された住宅については、仮に何らかの理由で贈与の効力が否定されたとしても、長男が自分の物であると信じる正当な理由があるので、住宅が自分の物であると過失がなく信じて占有しているといえます。このような場合、10年前に贈与された住宅に住み続けていた長男は、「時効」により住宅の所有権を得ることができます。
2 遺留分と時効取得
亡くなった人(被相続人)の意思によっても奪うことができない相続財産の取り分を「遺留分」といいます。「すべて長男に相続させる」という遺言によって「遺留分」を侵害された二男は、「遺贈」を受けた長男に対して、「遺留分」の返還を請求できます。
贈与を受けた人(受贈者)が相続人である場合、他の相続人との公平を図るため、相続人に対して生計の資本として贈与された財産などは何年前にされたものであっても「遺留分」の取戻しの対象となります。
したがって、長男が住宅を「時効」により取得しても、住宅以外に財産がなければ、住宅が「遺留分」の取戻しの対象となります。
3 「遺留分」の価額弁償
住宅など、現実に分割できない物を「遺留分」として返還することは困難ですし、贈与を受けた人(受贈者)が特定の財産を維持したい場合があります。このような場合、「受贈者」は、「遺贈」された物の価額を弁償すれば、物自体の返還をしなくてもよいことになっています。
したがって、長男は、次男の「遺留分」の価額をお金で弁償することによって、住宅に住み続けることができます。
10年以上前に行った住宅の贈与が「遺留分」をめぐるトラブルになることは、一般の方には気付かないことが多いといえます。このようなトラブルは「遺言」をきちんとしておくことで防ぐことができます。「遺言」をする際には、相続人となる方に対する贈与等を記録しておき、相続の専門家である弁護士等にご相談ください。
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著者プロフィール
弁護士 奥田 貫介
おくだ総合法律事務所 所長
司法修習50期 福岡県弁護士会所属
福岡県立修猷館高校卒
京都大学法学部卒
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